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2024.12.10

「東急ホテルズ&リゾーツ様 STREAM HOTELのブランディング・CI/VI」GOOD DESIGN AWARD受賞記念対談(後編)

対談の様子
(写真左から:小川丈人、武市美穂、佐藤ヒサオ)
対談の様子

もうすぐ終わりを迎える2024年は、私たちナディアにとって、創業20周年を迎える大きな節目となる一年でした。
この年に、東急ホテルズ&リゾーツ様との「STREAM HOTELのブランディング・CI/VI」の取り組みにおいて、ナディアとしては、初となるグッドデザイン賞を受賞することができたのは、大変嬉しいニュースとなりました。
そこで、プロジェクトを担当したExecutive Creative Director 小川丈人(以下、小川)、Creative Director 上田和実(以下、上田)、Art Director 武市美穂(以下、武市)、Producer 佐藤ヒサオ(以下、佐藤)の4名で、取り組みを振り返り、2024年を締めくくる対談を実施しました。
今回の後編では、ブランドメッセージ「INSPIRATIONAL LOCAL〜見違えるローカル、叶えるローカル〜」をどのように表現したのかを振り返ります。
前編の記事をご覧になりたい方はこちら。

対談者のプロフィール

ブランドメッセージ「INSPIRATIONAL LOCAL〜見違えるローカル、叶えるローカル〜」の表現

武市 「INSPIRATIONAL LOCAL〜見違えるローカル、叶えるローカル〜」というブランドメッセージが決まる前から、デザインも同時に進めていました。その中で、ストリームカーブのモチーフとなった「流水紋」は、私の中では早い段階で出てきたアイデアでした。「STREAM」のワードから、流れを表現するアイデアを探していましたが、何かもう少し必然性が必要だと思っていたそんな時に、日本のローカリティを表現する「流水紋」というアイデアに辿り着きました。

小川 このアイデアを聞いた時に、これだ!と思いました。ここ数年、日本では外資のホテルがすごい勢いで建設されています。東急ホテルズ&リゾーツ様のSTREAM HOTELはそうした環境下での新たなるチャレンジです。そのブランドデザインに武市さんが、日本の伝統文様を由来とするデザインを提案してくれた時、この新しいブランドに人格が宿り、魂が入ったように感じました。制作タイミングは、ブランドメッセージが決定する前からスタートし、多くの検討を進め、フルレンジで検証していて、とても大変だったと思います。

対談の様子
対談の様子

武市 今回は本当に数多くのアイデアを考え、検証の繰り返しでした「INSPIRATIONAL LOCAL〜見違えるローカル、叶えるローカル〜」というコンセプトが決まる前は、よりどころとするものがなかったので、すでに開店していた渋谷のホテルの空間と違和感のないものにしようと思っていました。全体の調和を重んじて、ホテルらしさや上質感を追求する方向性を考えていました。
しかし、「INSPIRATIONAL LOCAL」というコンセプトが決まると、初回でご提案したビジュアルのアイデアは「ちょっと違う」「何か足りない」とクライアント様も、私たちも思うようになりました。もう少しプラスアルファの何かが欲しいと。ホテルの空間もコンセプトが決まる前に作ったものだったので、「INSPIRATIONAL LOCAL」というコンセプトが体現したい世界観と異なってしまっていたのだと思います。

小川 コンセプトが決まる前に完成していた建物や決定事項、さまざまな関連する要素を束ね、なおかつ、渋谷、札幌だけでなく、今後の展開に連動できるデザインシステムを作ることができたと思っています。一番最初に流水紋のストリームカーブは「上質さ」を表現していると思っていましたが、流水紋の本質について考えたときに、流水の周辺の花鳥風月、さらにその四季折々を表すというところまで「ローカルピース」で表現できる。そこまで考えられたデザインシステムになったことは、武市さんの力だと思っています。

対談の様子
(写真右:京都オフィスからリモート参加の上田和実)
対談の様子

「ダイナミックアイデンティティ」の採用

武市 流水紋のデザインに加えて、コンセプトにある「インスピレーション」の要素について考えました。最終的に採用された「ローカルピース」以外にも、インスピレーションを表現するために、流水紋が一本線のグリームに絡む感じで入れたり、流水紋自身を光のスペクトルみたいに反射させてみたりと、いろいろなインスピレーションの方向性を考えました。そして、最終的にクライアント様が選ばれたのが、「ローカルピース」というアイデアでした。

ローカルピース一覧
ローカルピース一覧

佐藤 私も「ローカルピース」が、一番ピンときました。直感的に可愛いと思いました。

武市 クライアント様に提案した際に、「ローカルピース」のアイテムがあったら、お客様とのコミュニケーションに繋がるというご意見をもらいました。ホテルでの体験を提供している方ならではの広がりを感じてもらえ、実際にさまざまな方法で機能してくれて、本当に良かったと思っています。

佐藤 地域の個性に合わせてローカルピース」と「ストリームカーブ」を組み合わせて表現する、この「ダイナミックアイデンティティ」という考え方は、変化の著しい今の時代に非常に合っていると思っています。初めは、ホテルの運営や運用の際に、使い方が難しいのではないかとの心配もありましたが、店舗スタッフの方々にも楽しんで使ってもらえる形にまとめることができたように思います。

ブランドメッセージ「Inspirational Local~見違えるローカル、叶えるローカル~」

また、クライアント様からは、STREAM HOTELのひとつの顔になっているというお言葉をいただいており、実際に札幌のSTREAM HOTELに宿泊してみると、ピースを使って自分の名札にしていたり、グッズとして展開しているアクリルの透明のキーホルダーを胸から下げて、お客様とコミュニケーションをしている姿を見ることができました。きちんと機能していることが本当に嬉しいです。

「INSPIRATIONAL LOCAL〜見違えるローカル、叶えるローカル〜」の具現化

佐藤 私たちは、「INSPIRATIONAL LOCAL〜見違えるローカル、叶えるローカル〜」というコンセプトでも掲げたように、STREAM HOTELは、有名な観光地をオススメするようなホテルではなく、もっと知られざるローカルを知ってもらうことによってインスピレーションが湧くような旅をしていただく、そのためのホテルであってほしいと考えてきました。そのため、「ローカルピース」のピース選びにおいても、その土地の有名すぎるものばかりではなく、実はこういうところが見どころ、というモチーフも選びました。最終的には、100個くらいの候補を挙げ、クライアント様と一緒に相談しながら選んでいきました。「渋谷といえばコレ」というものもあれば、「実は奥渋谷にある人気のカフェや、古くから培われた音楽カルチャーを表すレコード」など、あまり知られていないものと有名なものとのバランスをとても丁寧に考えていきました。

他の案のローカルピースの検証
他の案のローカルピースの検証

上田 新しいVIに合わせてアメニティのパッケージのデザインを変更するにあたり、チームでディスカッションしていた時に、何か「地域との関連性」をつくれないだろうかという意見がでました。そこから生まれたアイデアが「セレンディピティ・アメニティ」です。全てのアメニティパッケージに、近隣のスポットやお店を紹介する、クスっと笑えるコピーライティングをデザインしました。このアメニティを通じて「STREAM HOTELが実現したいことがどういうことなのか」を、来店されたお客様に「体験」として理解してもらうことができたのではないかと思います。

佐藤 私が担当する別件のクライアント様の中にも、STREAM HOTELに宿泊された方がいて、アメニティのことが印象に残っており、「面白いよね」と言ってくださる方もいました。

小川 このアメニティの取り組みは、まさにSTREAM HOTELが実現しようとしていることをお客様の手元までお届けし、アクティベーションにまでもっていく気概を感じる取り組みでしたね。

STREAM HOTELのアメニティ
STREAM HOTELのアメニティ

佐藤 私たちが、クレドの作成にも関わらせてもらえたことも、非常に貴重な経験でした。クレドは、STREAM HOTELのサービスの基盤となる考え方のようなものです。そのような重要なアイテムを一緒に制作できたことは、ブランドを浸透させるうえで大きなポイントだったと思っています。

上田 「働くスタッフ全員がお客様の地域ガイドになる」といった内容のクレドの制作をご提案させていただきました。クライアント様がそれに賛同してくださったのは、とても嬉しく、同時にクライアント様の本気度を改めて感じました。さらに、従業員の満足度調査で、非常にいい結果が得られたというお話もあり、クレドがきちんと活用されていることも、嬉しいところです。

佐藤 もともと、東急グループ様のホテルは、ホスピタリティが素晴らしいというブランドイメージがありますが、ターゲット層がミレニアル世代ということもあり、STREAM HOTELでは「ライフスタイルホテル」という新しい挑戦の一つとして、店舗スタッフの服装や、言葉遣いもフレンドリーにしていく改革も行われています。

上田 この改革も結構な「勇気」だと思います。「勇気」あるチャレンジですよね。

佐藤 また、ホテルで提供される館内着の刺繍も可愛い。

小川 クマがポケットからチラッと出ているんです。

館内着に刺繍されているクマ
館内着に刺繍されているクマ

武市 私も、ホテルの支配人とレストランの責任者の方に、ある施策をプレゼンしたところ、「こちらでも考えているんですよ」というお話をいただいたことがありました。「INSPIRATIONAL LOCAL〜見違えるローカル、叶えるローカル〜」というコンセプトが、さまざまなSTREAM HOTELで働く方々、一人ひとりに浸透していると感じられ、とても感動しました。

ナディアのクライアント様との向き合い方

上田 ナディアのTAGLINEは、「Design for Everyone」です。今回のプロジェクトでいうと、この「Everyone」にはクライアント様だけでなく、ホテルの店舗スタッフや旅行者など、関わる全ての人が含まれています。みんなで幸せになるデザインを考えることが、「Design for Everyone」です。誰か一人が幸せになるデザインではなくて、みんなが幸せになるデザインという部分が今回の取り組みで実現できたと思います。

小川 私たちナディアには、PHILOSOPHYとして「Emotions that give power to creatives」があり、どんなときに感情が動くかということをいつも考えます。例えば、チームメンバーで、SHIBUYA STREAM HOTELのレストランで試食をしていた際に、メンバーの一人がお肉が苦手なことをさらっと話したところ、ホテルの方がスマートにメニューを変更してくれたことがありました。変更してもらえたメンバーはとても喜んでいました。そのような体験を経て、もっとより心が動く瞬間はどうしたら提供できるんだろうという想いがメンバーの中にはベースとしてあったと思います。

佐藤 今回の取り組みは、さまざまなところに足を運んで体験し、実感して議論する時間がとても多いプロジェクトでした。実際に行ってみよう、感じてみようという活動が、心動かす体験を考えるうえで、もう一歩深く、さらに深く考えることにつながったと思います。

上田 クライアント様も含め、思ってることを全部言い合えるチームでもあったと思います。クライアント様も、クリエイターが言ってるんだからと遠慮することもなく、言いにくいこともきちんと伝えてくれる、そんな関係性が素晴らしかったと思います。

佐藤 特にプロジェクト初期はロジックのまとめ方など、難しい内容の議論が続きましたが、クライアント様が不明なことやあいまいなことについて「どういうことなんですか」と聞いてくださったのが、とてもよかったです。そのおかげで、一つ一つきちんと説明することができ、お互いが納得する方向に進めたのではないかと思います。

小川 私たちは、PURPOSEに「あらゆる社会と企業の課題を解決する」を掲げています。このPURPOSEの実現に向けて私たちを全力で取り組むステージに引き上げてくれたのが、このプロジェクトだと思っています。視察や、リサーチ、現場のスタッフとのディスカッションなど、良いもの作りをするためのチャレンジをたくさんさせてもらいました。そして、その取り組みが外部評価を得られたことも、今後私たちが新たなチャレンジをするときの背中を押してくれる糧になったのではないかと思います。2025年はさらなる飛躍の1年にできるように取り組んでまいります。

対談者記念撮影
対談者記念撮影

編集:川副信雄 撮影:阿部隼輝、髙橋亜季(株式会社ナディア)